Opus ZERO

No Beginning No End.

偉大な音楽家の死

3月28日、坂本龍一が亡くなった。亡くなってしまった。

 

もうずいぶんと前から覚悟していたつもりだったが、やはり喪失感がかつてない程に強く、深い。最初の癌発覚からの回復と、その後に創り出した静謐で音響的で有機的な音の展開は見事という他なかった。そしてそれはこのまましばらくは続くのだと、意識的楽観的に信じようとしていた。

 

しかし病は感傷に遠慮しない。間髪入れず音楽家に近づき、その後新潮の自伝で詳しく告白されることとなるが、そのフェーズは癌が複数の場所に転移したステージ4という残酷なものだった。

 

心底落胆したであろう検査結果から、それでも坂本の人生の始末の付け方は、それは感嘆するほどの美しさだった。

 

罹患前に依頼を受けていた全ての仕事(映画音楽、校歌、ファッションショーの音楽など)を納期までに仕上げ、自身の演奏する音と姿を後世に残すべくMR(Mixed Reality=複合現実)に挑み、ラストコンサートの収録に当たっては新境地とも言える驚きのアレンジを披露した。

 

坂本は最後に「芸術は長く、人生は短し」の言葉を残したが、それは晩年の音楽活動を体現している。坂本龍一が残した音はこれから数百年に渡り人々の感性に残っていくだろう。彼が愛したバッハやドビュッシー以上に。

 

Ryuichi Sakamoto

 

もしかすると、それはこの星の人々の中に留まらず、同じ宇宙の彼方にいる誰かにも伝わるかもしれない。

 

それくらい、偉大な音楽家と同時代に生き、その死に様を感じることが出来たのは、僥倖だったのだろう。